11月8日(金)18時から20時30分まで、ホテルニューオウミにて、東近江支部・女性部合同11月BIG例会を開催しました。株式会社 丹後 取締役 丹後佳代氏より『経験・知識・売上ゼロからの挑戦』をテーマにご報告いただき77名が参加しました。
【丹後佳代氏について】
丹後氏は愛媛県今治市出身で、兵庫県の大学で教職課程を修了。卒業後同じく兵庫県の山間の小学校に教員として赴任。その後、結婚を機に再び今治に戻られました。夫の実家の家業は3代続く保険代理店と不動産業で、今までタオル工場を経営した経験はありませんでした。
【工場継承の経緯】
丹後氏がタオル工場を経営するきっかけとなったのは、人口減少による今治の衰退を肌で感じ、「私たちが町に何かできることはないのだろうか」と考えていたところに、老舗タオル工場の廃業予定の相談をもらったことです。廃業を残念に思った夫が熟考の末に「タオル工場を継ぎたい」と決意し、夫婦での事業承継に踏み出します。しかし工場の設備は古く、従業員もほとんど残っていません。丹後氏もタオル製造に関する知識はなく、知識・経験・売上・取引先ゼロからのタオルづくりが始まりました。
【しあわせを織りなすタオルOLSIA~完成への道のり~】
今治タオルの製造過程は地域全体における分業制です。一つの工場ですべてが完成するのではなく、糸商、染色工場、製織、縫製、検品など様々な職人が一体となって、タオルを作りあげていきます。その中で、㈱丹後は、織機をもつ工場としてタオルを織っています。丹後氏はタオル製造でわからないことがあれば、教えを請いに各所に赴きました。機能やデータで困れば今治タオル工業組合へ、デザインや製織で困れば繊維産業技術センターへ、技術的な課題は高等技術専門学校でも、勉強が可能です。周囲の協力を得て、自社の職人と試行錯誤を繰り返し、ようやく念願のタオルが完成しました。90年の歴史を持つ作り手と、使う人の両方の幸せを織り込んだタオルとして、「作る人も、使う人もしあわせにしたい」との思いを込めて【しあわせを織りなすタオル】から “OLSIA“(オルシア)と名付けました。
【タオル販売の開拓】
タオルは完成しましたが、丹後氏はOLSIAの販路開拓で苦労されます。“OLSIAは高品質のタオル”との自負があった丹後氏は「いいものなら売れるだろう」と考えていました。丹後氏は百貨店への販路開拓をめざし東京の百貨店へ商談に赴きましたが、バイヤーからは「知られていない製品は取り扱えない」と断られてしまいます。また、「あなたの工場は3年後残っていますか?」と問いかけられ、自信を持って残っていると答えられませんでした。丹後氏はほかにも販路開拓に奔走しましたが、面談予約すらなかなか取れず、会えることができても断られ意気消沈する結果が続きました。
丹後氏は数々の失敗から、まずは実績づくりが必要と痛感し、地元の記者クラブに直接、情報提供をしました。努力の結果、90年続くタオル工場は記者の興味を引き、地元新聞にタオル工場承継のエピソードが掲載されました。また従業員が新聞の切り抜きを嬉しそうに持ってきてくれたことで、改めて自社事業が従業員や地域にとっての誇りになっていたことに気が付きます。
それらの経験から、いかにタオルが高品質かを訴えるのではなく、「OLSIAの販売を通して従業員や今治の地域住民、そしてお客様のしあわせに貢献したい」という想いをバイヤーに伝えたところ、「その考え方は日本各地の品を厳選してお客様に届けるという百貨店の考えに合致します」と共感してもらい、大手百貨店と販売契約を結ぶことができました。現在、OLSIAは伊勢丹新宿店、阪急うめだ本店、今治の直営ショップで店舗販売を展開しています。
【今後に向けて】
丹後氏は最後に「未経験の業界で挑戦を続け、6人だった従業員が今では約60人になり、若者も入社する会社に成長ができた」と自社のこれまで振り返り、「最初はできると思えなくても未来はどうなるかわからない。これからも地域との繋がりを大切にし、事業の拡大と発展を目指していきます」と今後の展望を述べられました。
(記 事務局員 横江裕聖)