○ローカル企業の技術力と人材育成から学ぶ!~第2回アジア視察研修会二日目「ホーチミン」編
2013年9月9日(月)
ホーチミンでの宿泊先、「BONG SEN ANNEX ボンセンアネックス」で朝食を済ませた私たちは、午前8時半にロビーへ集合し専用車にて視察先へ出発です。
昨年のハノイでは時間の関係で日系企業しか視察出来ませんでしたので、今回はローカル企業を訪問し、現地企業の技術レベルと経営戦略、そして人材の育成について学ぶことにしました。
初日に感じた国民皆自営業的な道を移動すること約60分で視察先のBach Tung Mechanics & Contruction Co., Ltdに到着です。社長のNGUYEN BA TONG氏にご案内をしていただきました。
http://www.bachtung.vn/en/
Bach Tung社は板金、溶接、部品加工を主業務として創業8年です。大学で専門を学んだNGUYEN BA TONG社長が1年間企業で学び25歳で独立。社長含む計3名が工作機械1台でスタートし、いまでは社員数50名(内エンジニアは5名)で、資本金は5万$(500万円)年商は90万$(約9,000万円)。しかも経常利益が5~10パーセントという高収益企業へと発展していると聞き、参加者一同驚きです。
仕事は6時~20時で、6時~14時、14時~20時のシフト制。エンジニアもワーカーも地元の人材で、定着率は良いそうです。エンジニアの給料は700$/月。ワーカーは300$~700$/月。技術系の若者を採用し、古株がOJTで訓練しています。
現場の社員さんはきちんと挨拶され、工場内は整理整頓が行き届き、休憩所にもタバコの吸い殻一つ落ちていません。日本製の工作機械が80%で、3次元の加工機も設置しています。社内でよい人間関係をつくるために、土・日は社長も入ってサッカーをしているそうで、3月と6月には社員と飲み会、年1会社員旅行があるそうです。売上げもオープンにしているそうです。NGUYEN BA TONG社長は「良い人間関係作りと、待遇が大切」で「お金だけでは解決出来ない、心と心の関係が重要」だと強調されました。
主な取引先は、ベトナムに進出している日系企業。営業は3人。日系企業へのTELアポ・訪問と、展示会への出展で顧客を開拓しています。「品質、納期で勝負。中国企業より安い価格では無理なので、価格競争はしていない」とも。ベトナムでは材料が手に入らず(Bach Tung社は台湾から仕入れています)、裾野産業も発達していないため、技術勝負が出来るそうです。とは言うものの、納期は日本向け6ヶ月。ベトナム日系企業向けは2ヶ月と言いますから、結構長い。おそらく大手企業との計画的な取引が多いためでしょう。
家の前で創業し、4年前に現在の工場(300㎡)へ移転。1015年には工業団地へ移転し、3,000㎡の工場を持つとも。
「ベトナムで裾野産業のナンバーワンとなり、ベトナム経済発展に貢献するため、会社を成長発展させたい」と夢を語っていただきました。
お金だけでは解決出来ない心とこころの関係づくり、夢を語り、売上げもオープンにして社員一丸で会社を発展させようとするNGUYEN BA TONG社長。大変に勢いを感じることができました。
Bach Tung社の加工技術は、決して最先端と言うことではありません。日本の一般的ミドルクラスといって良いでしょう)と比べても遜色はありません。しかし、生産の現地化を進める日系企業にとって、高品質の部品を納期厳守で生産提供出来るローカル企業は、ビジネスパートナーとして貴重な存在になっていることが良くわかりました。
現在は中国企業との競争が課題(日系企業は中国企業とも取引があり、引き合いに出されるため)だそうですが、過度な価格競争には巻き込まれない、中国企業並みの価格を提示すれば、品質と納期でかてる、地の利による優位性を発揮しています。
なによりも、社長が良い労使関係づくりに心を配っていることも特筆される強みであると言えます。
NGUYEN BA TONG社長、社員の皆様、有り難うございました。
昼食を済ませた私たちは、13時30分からAnh Thy Co., Ltd を訪問しました。
http://www.ant.com.vn/
ご案内していただいたのは会長のNGUYEN THE TAN 氏(41歳)です。
Anh Thy社は配電盤の製造メーカーです。資本金は200万$(約2億円)。年商は500万$(約5億円/2011年度)。従業員数は90人(内、エンジニア15人、オフィススタッフ10人)です。来年に工場を移転し、規模は現在の2,500㎡の倍になるそうです。
NGUYEN THE TAN 氏が2003年に創業。配電盤の創造からはじめ、金属加工、配電盤、BOXへと広げてきました。顧客の殆どはベトナムにある日系企業(約170社)。2010年に日本の企業へ初めて制御板を輸出することが出来たそうです。
2011年からは三菱電機のベトナム市場でのパートナー企業となり急成長します。
ベトナムでは三菱電機のシェアが高く、Anh Thy社が三菱電機の部品で制御板をつくり、設置から故障の対応、休日でもメンテナンスを行います。「高い技術を持ち、納期を守り、メンテナンスにきちんと対応してきたことがわが社の強み。ベトナムで三菱電機のパートナー企業はわが社だけ」だと強調されます。
日本への輸出を増やすために、毎年3~4人を日本の客先へ研修に出しています。納期は国内なら板金で2週間。配線までして1ヶ月~3ヶ月。日本の場合は5週間だそうです。
ベトナムの日系企業は約700社。価格は中国企業と戦えないが、中国からの物流は弱く、地の利が強み。
就業時間は7:30~16:30まで。社員とは、家族的な関係を大切にしていています。社員の殆どは出稼ぎなので、かつては正月に帰省したら30%は帰ってこなかったが、良い労働環境をつくり、給料も他社より高くし、ボーナスも3ヶ月払う(賃金年15ヶ月で契約。一般的には13ヶ月契約)と、退職するケースはほとんど無くなったそうです。
短大を出て入社した社員が大学に行きたいなら、学費を会社で支援するとも。この様な会社は、日本でもそうないでしょう。
参加者からは、「板金と塗装の技術レベルは日本の取引先よりも高い」と言う声も。
ミーティングルームにお茶を運んでいただいた女性社員さん、気を遣いお代わりまですすめてくださり、実によい感じでした。
帰り際にトイレをお借りしましたが、私たちが使う前にわざわざ掃除をしていただくなど、気を配っていただきました。こういう気配りが、日系企業から選ばれ続けるためには大切なのでしょう。
NGUYEN THE TAN会長、社員の皆様、有り難うございました。
二日目最後の訪問先は、ベトナム人材の教育事業を行っているESUHAI社です。
http://jp.esuhai.com/
到着後に、日本語教育の授業風景を見学させていただきました。最初のクラスは、約20人の生徒さんが立ちながら授業を受けています。私たちが到着すると、一斉に「いらっしゃいませ」と元気の良い挨拶と、歓迎の拍手をいただきました。どうして立ちながらの授業なのかと聞きますと、製造現場のラインに近い状態を経験するために、一月2~3回立ったままで授業を受けているそうです。これには驚きました。
別のクラスでは、約30人の生徒さんが、注意・禁止の言葉の練習中。「ポイ捨て禁止」「触るな」を繰り返し音読し、その意味を日本語で説明する授業です。
どのクラスの生徒さんも、とても明るい表情で、私たちへの質問も活発。日本への出国前教育は1年だそうですが、大変流暢な日本語を使い、よく勉強していることがわかりました。
授業風景の見学後に、社長補佐の里村勇祐氏と顧客開拓・サポートチームの青波晶子さんからESUHAI社の事業概要を説明していただきました。
ESUHAI社はベトナム資本100%のベトナム企業で、従業員は90名です。主な事業はつぎの5つ。
1.ベトナム人材の教育研修事業
初級日本語から中級ビジネス日本語の教育。自ら考え、行動し、信頼を得ることが出来る人材を目指す教育です。
2.ベトナム人技能実習生の派遣
高校卒以上の人材を、3年間ワーカー、オペレーターとして主に製造業、食品加工業など日本の制度で定められた職種へ派遣する事業です。
3.ベトナム人高度技術者の派遣
大卒人材を就労ビザの括りで派遣する事業です。幹部候補生の育成です。
4.ベトナム国内人材の紹介
いままで日系企業で働いた経験のある人材を、日系企業へ紹介する事業です。
5.ベトナム進出への総合的サポート
ベトナム人材の出国前教育は1年ですが、ベトナム人材の帰国後教育(3年間の実習を終了した後)を行い、レベルの高い人材を育成しています。また、ベトナム日系企業の社員研修も行っています。社会偉人の意識教育(ビジネスマナー、マインド)では、単に日本語が出来るだけではなく、仕事と人生計画を統一して教育しています。ただお金を儲けるというだけでは、日本での研修は成功しない。例えば「言い訳禁止」の意味は、教える人が君に教える気を無くしますよ、それは君にとって損ですよ、と言う風に、何故なのかを教えています。
ベトナム人技術者の教育では、入学生として750人~850人をプールし、入学から3ヶ月は勉強、この中から成績の良い生徒を面接して合格を出し、出国させます。ここまでで1年かけますので、モチベーションの高い人材を送り出せるそうです。
実習生入国後は、東京事務所と連携して電話などで生徒をサポートしています。
ベトナム人高度技術者とは、大学卒の20代半ばの男性が殆ど。3年という括りはなく、雇用関係となり、ベトナムでのマネージャーを目指す人材です。
賃金は、管理職800~1000$、中間管理職500~1000$、帰国実習生200~400$、ローカル120$。というところ。
ベトナム技術者を実習で受け入れて、よく頑張るから「よし、ベトナム進出してみるか」という企業が多いそうです。
ESUHAI社の実習生は、他の派遣事業者とはマインドが決定的に違う。日本語力が全く違う(片言ではなく、コミュニケーションが出来る)といいうのが特徴。実習生は貧乏な人が多く、お金の事を考えて日本を目指していて、その先のことを考えていないとか。だから、3年間の実習期間、目的意識を持たないで過ごす人が多い。ESUHAI社では、お金以外のスキルを身につけることを教えているそうです。
学校へは希望者の90%以上が入学出来ますが、卒業出来るのは70%(日本へ行ける生徒)。学費は25$で、働きながら勉強して払える額。他よりも安い設定だそうです。
日本で学び、技能を身につけ、ベトナム経済の発展を担うことを目的として人材の育成を図る。日系企業の戦力となる高度な技術者を育成し、日本のものづくりの活性化とベトナムの工業化を友に目指すというESUHAI社。なによりも、見学したクラスの生徒さんの熱い眼差しが忘れられません。
このあと、午後6時半からベトナム滋賀県人会の皆さんとの交流を兼ねた食事会。県人会の代表で、0SAKA RAMEN(大坂ラーメン)を経営する青木幹夫さんのご発生で乾杯。
ベトナムでの事業について大いに話しが盛り上がりましいた。
(廣瀬元行@滋賀同友会専務記)