滋賀県中小企業家同友会

支部活動について-北近江支部-

みんなで田園風景のある未来をつくる~長浜・米原ブロック6月例会~

北近江支部 例会レポート

長浜・米原ブロック6月例会が2023年6月19日(月)18:30~21:00まで長浜まちづくりセンター1階 会議室1Cで行われ、33名が参加しました。

報告テーマは「みんなで田園風景のある未来をつくる~みんなの力で化学反応=奇跡を起せる~」で、報告者は家倉敬和さん((株)お米の家倉 代表取締役、同友会長浜・米原BL運営委員)でした。

家倉さんは、2002年に大学を卒業後、代々続く農業に就農。家族と自然のなかで四季折々の遊びを楽しみながら、現在は同友会大津支部メンバーがきっかけで海釣りにはまっておられます。

<お米の家倉の紹介>
古い歴史と昔ながらの田園が広がる小谷山の麓で、米づくりを中心に農産物の生産と販売および農業イベントを開催。琵琶湖の水にも支えられ、昔から環境へ配慮した米づくりが特徴。収穫したお米は、デパート、地酒、飲食店等を通じて世の中に広まっています。近年、新たな水害対策として田んぼダムの機能が見直されています。

<第1章 農業人生のスタート>

農業について熱く語る家倉さんですが、実は、ずっと農業をしたくないと思っていました。20年前、農業に対する世間のイメージは5K(キツイ、汚い、危険、稼げない、結婚できない)、そんな世界に入りたくなかったそうです。ところが、就活を控えた大学3回生の夏、父が体調を崩したとの実家からの一本の電話で、卒業後の進路が決まりました。卒業までの間、悶々とした思いが続くなか、車椅子デザイナーの川﨑氏と出会い、「運命を嘆くより、そこから好転させる気持ちが大事。」という言葉で農業をする決心がつきました。農業1年目。実際の農作業は想像以上に過酷で辛く、両親にも当る始末。散々なデビューとなりました。

その後も色々な人との出会いや言葉の力によって自身の考えや農業への思いが変わっていきました。農業に挫折した時、米づくりへの挑戦を気付かせてくれたNYの大学生。農業の醍醐味を知り、やり甲斐を感じはじめた時、自分のやりたい農業を気付かせてくれた写真家のMOTOKOさん。そして、農業7年目、「農業のイメージをカッコよくしたい。」という大きな目標ができ、農業人生の第2幕がスタート。農業フェス、マルシェ出店、農業とアートの融合、農業体験などのイベント活動を精力的に行いました。農業10年目、世間の農業に対する見方が変わりはじめた手応えを感じました。

<第2章 経営指針を創る会を受講して>

社員の退職と新たな採用にあたり、会社のつくり方を悩んでいた時に、偶然、荒木氏(エース産業機器社長)の例会報告を聴講し、経営者としてのパワーに衝撃を受け、同友会への入会を決意しました。2017年に経営指針を創る会を受講し、経営理念や指針経営の大切さを学び、腑に落ちる指針書が出来上がり実践していきました。

ところが、お米の家倉最大のピンチが訪れました。当時を振り返ると、会社の未来と言いつつ自分の足元しか見えていなかったのです。現状を守るためには社員が必要。辞められたら困るという思考から、仕事の遅れは家族の時間外や休日労働で対応していました。いつしか社員と家族の間に溝ができていた。2019年5月、とうとう空中分解し、田植えの最中に社員2名が退職する事態となりました。今思えば、経営理念はあったが、ビジョンがなかった。これまで「農業=カッコ悪い」のイメージを変えたい思いで走り続けていたが、将来の目標(ビジョン)を見失っていました。

その後の1年間は本当に大変でした。現場を回すだけで精一杯であり、何のために働いているのか、改めて事業を再定義する機会となりました。ピンチを学びのチャンスと捉えました。

<第3章 お米の家倉 再スタート>
翌年、農業初心者の妻が事業へ参画。新しい風が吹き、色々な変化が起こりました。いつの間にか忘れていた一番大切な「農業を愉しむ」を思い出させてくれました。

ブランディングの再構築にも取組みました。本気で自分達の手でお米を販売する覚悟を持ち、生産と販売の両輪で進めることを決意。目標を見失った自分が、「農業をどう未来に繋げていくか」をキーワードに、もう一度自分達のアイデンティティを掘り下げていく日々が始まりました。農業は自然ファーストであり、働き方改革とは一線を画します。しかし、働く自分達が農業のある暮らしを愉しみ、土が産み出す豊かさを味わって、社内や社会の皆さんとその幸せを分かち合っていけば、きっと未来に繋がって行くだろうという風に考えが変わっていきました。未来を考える時に過去と現在は繋がっている。職人気質の4代目(実父)もずっと未来を見据えて農業を続けていたことに改めて気付きました。

<第4章 土が産み出す豊かさを食卓へ・暮らしへ>

自らが農業を愉しみ、土からの恵みを味わう。単純に米を作るのではなく、この思想を伝えていこうと皆で決めました。そう考えるうちに、「みんなで田園風景のある未来をつくる」という新たなビジョンが芽生えました。これまでの流れで、ひとりでは奇跡は起せない。みんなの力で化学反応が起き奇跡が起こる。お米の家倉に妻が加わり、スタッフや多くの仲間が加わり、かけがえのない多くのモノやコトが生まれました。一時、会社が家族だけへ戻り、新規採用に消極的でしたが、新たな未来をみんなと一緒に描きたいという思いで採用活動を再開しました。しっかりとお互いの価値観を分かち合うことで、今春4月より新たな仲間2名を迎えることができました。現在、家族で集えるチームづくりを目指しています。マルシェ等のイベントを子供達が楽しみにしています。子供が親の仕事に誇りを感じてくれていることが何よりも嬉しい。2017年につくった経営理念。言葉こそ同じだが、みんなが加わり解釈の幅が広がりました。これからも仲間と共に、土が生み出す豊かさを食卓と暮らしへ届けいくことを使命に、みんなの力を携えてやって行きたい。

最後はユーモアたっぷりに「Have a Rice Day!」と締められた家倉さん。農業を通して人生を愉しむ仲間達に囲まれて最高の笑顔に心から感動を頂きました。