滋賀県中小企業家同友会と立命館大学経済学部との協力協定に基づいてスタートした同学部2回生対象の「キャリアデザイン講義」(担当:共育・求人委員会)第10講が6月14日(木)16:20~17:50まで立命館大学びわこ・くさつキャンパスで開催され、滋賀県中小企業家同友会 ㈱古川与助商店 代表取締役 河村朱美さんより「人と糸が織りなす新たな事業創造~新たな価値の見つけ方」をテーマに概要以下の通り講義をしていただきました。
1.会社について
河村さんの経営する㈱古川与助商店は昭和10年創業。西陣織の帯などに用いられる金糸・銀糸を作る会社でした。後に水引に用いられるフィルム、不織不、和紙などを細くカットし、巻き取る技術に特化しました。現在、マイクロスリッター加工、貼りあわせ加工(紙と箔、紙とフィルム等)、和紙商品販売(ジャケット、コートなど)、和紙糸使用の生地販売などを手がけておられます。
2多くの挫折経験
河村さんは母の影響でバレーボールをはじめ、将来はオリンピック選手かと期待されましたが、高校3年生のとき、足を負傷し、スポーツができない体になってしまいます。大きな目標を失ったなかで、河村さんは「ものづくりがしたい」とおもうようになり、京都の短期大学で陶芸を学びました。
卒業後、イタリア製の洋服をあつかう高級店に就職。22歳のときにチェーン店の店長となりました。しかし、激務のため体を壊し病院に搬送され入院することになりました。それを契機として「何のために働いているのか」と疑問を抱き、退院後、仕事をやめ、東南アジアへ旅にでます。その過程で、東南アジアの人々は日本ほど豊かではありませんが、元気で笑顔がきらきらしている。日本人がつかれきっている。「本当の幸せとは何か?」という新たな疑問を抱きました。
3.事業を継承
平成15年、古川与助商店の社長に就任されます。会社には課題が多くありましたが、一番大変だったことは工場移転問題でした。カット加工の仕事を多く受注しており、工場の規模を拡大する必要がありました。立地や建築許可の問題で1年半、いろいろと手を尽くしてもなかなか許可が出ませんでしたが、滋賀県中小企業家同友会へ相談したことを契機に、何とか許可が下り、平成18年に新工場が出来上がります。
4.売り上げの減少~訪れた転機
大手企業から繊維カットの仕事を請け負っていましたが、中国へ生産拠点が移されたことから仕事が激減、従来の10分の1にまで売り上げが減ってしまいました。
大手企業からの仕事を失った河村さん。しかし、それが会社にとって大きな転機となりました。「やっとやりたいことができる」と、これまで培った技術を活かした新たな事業を展開なさいます。
平成18年、展示会に初出展。その後、試行錯誤の結果、和紙糸を撚る技術を獲得。平成23年にはイギリスのデザイン・エキジビション「テントロンドン」に和紙糸・生地を出展、海外企業との取引も得ました。
現在では、和紙糸で製作したシャツやジャケットは、著名人にもご愛用いただくなど高い評価をいただいています。
5.新しい価値の創造
多くの苦労と努力により、伝統技術を承継しつつ独創的な自社製品の作製に成功した河村さん。新しい価値の創造には、次の2点が重要だったとおっしゃいます。
① 微差(びさ)
糸は糸でも縒り方で、糸のできがぜんぜん違ってきます。たとえば、今治タオルは使っている機械は一般的なものですが糸を細くすることで成功しました。固定観念に邪魔されず、見方・考え方を変えることで、違うものを生み出すことができます。同じ環境にい続けると変化は生まれません。
② 感動力
物に感動していないとひらめきはありません。感動日記をつけていましたが、後から読んでも感動が再現される。自分がどんなことに感動したかを知っておくことが大事で、それが落ち込んだときに気分を転換するきっかけにもなります。
6 縦糸と横糸
織物は、縦糸を張ることに時間を要します。その分、縦糸がしっかり張られていれば、横糸がどんな素材でも、受け入れることができます。自分という縦糸をしっかり張りつつ、どんな横糸でも受け入れるという心構えで、さまざまな人と出会い、交流することを通じて、「自分」という生地を織り重ねています。
7.引きこもりの方を社会へ
引きこもりになってしまった方の支援をしています。少しの時間でも仕事ができる方を、できる範囲で会社を通じて社会とつながってもらいたい。ある方とお話をしたとき、固定観念にとらわれていない発想を持っていたことに驚いきました。私には気づかない視点を持っていられ、そこから、新しいものづくりの発想を得ることができました。
8.学生の皆さんへ
転換力が大事。今していることを手放したほうが、よりよいものが入ってくることがります。人間は単純で、悲しいことがあってもちょっとしたことで気分が転換します。しかし、脳が邪魔をしてくるので、自分が何が楽しいとおもっているのかを知って、気分を転換することが大切です。落ち込んで時間を無駄にしてはダメです。
河村さん、ありがとうございました。