滋賀県中小企業家同友会

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2019年度 立命館大学経済学部キャリアデザイン講義第14講 宮川バネ工業株式会社 代表取締役 宮川草平さんがご講演!

共育・求人委員会 その他活動

滋賀県中小企業家同友会と立命館大学経済学部との協力協定に基づいてスタートした同学部2回生対象の「キャリアデザイン講義」(担当:共育・求人委員会)第14講が1月9日(木)16:20~17:50まで立命館大学びわこ・くさつキャンパスで開催され、宮川バネ工業株式会社 代表取締役 宮川草平さん(滋賀県中小企業家同友会 東近江支部所属)より「後悔しない就職活動のために」をテーマにご講義いただきました。その概要をお伝えします。

私の会社は自動車・家電・建築、発電所、鉄道等のインフラ関係に板バネを加工して供給する金属加工メーカーです。会社では厚生労働省のユースエール認定(若者雇用促進法に基づく認定)を受けているホワイト企業です。

1.会社を承継するまで
私のもともとの人柄ですが、すべてが面倒くさいと思っていました。無気力で、仕事も面倒くさい。会社も嫌で、継ぐのもいやだと思っていました。そこで、会社を売ろうとしました。手続きをはじめて、買ってくれそうな会社がみつかり、好感触でした。大阪の会社ですが、訪問して工場見学もさせてもらいました。売却したあとの話をいろいろと先方と話をしていると、社長から「宮川さんは本当にこの会社のことがすきなんですね」といわれました。
それで、本当は自分はこの会社のことが好きなんだなと気づきました。祖父が創業した会社です。祖父のことも好きでしたし、社員も働いてくれていましたし、取引先もありました。なのに売ってもいいものかと、3ヶ月間悩みました。やはり、自分で会社をやろうと決めました。会社を売ってしまったら、社員さんの働く環境も変わってしまうし、それではよい会社にはならないと思いました。
会社を継ぐと、それまで嫌だった仕事が好きになりました。なぜかというと、目的ができたからです。自分がこの会社をよい会社にしていきたいという人生の目的と、会社をよくしていくという目的が一致したからです。なぜ会社が嫌だったのかと考えると、人に対する不満ばかりだったのは、他人に求めているばかりで自分で何とかしようとしていなかったからでした。「誰か」ではなく自分で解決することに気づきました。

2.会社を承継した時の課題
自社が製造するバネの8割が自動車部品です。電気自動車の時代がきてエンジンがなくなると、トランスミッションもなくなって、部品が今より半分ほどになります。そうなると、バネ業界が落込んでいくことは、目に見ています。今の半分ほどの規模になるといわれています。売上もリーマンショックを境に大きく下がりました。
会社の組織についても、課長、リーダー、マネージャーがおり、指揮系統が悪かったです。パワハラなどをする人もいて、若い人がどんどん辞めていく状況でした。50歳以上のベテランがいて、その下が20代という年齢構成に疑問がありました。
そんな状況でしたので、なんとかしようといろいろな勉強会や見学会に参加しました。そこで学んだ「よい会社」の条件が、①独自性がある、会社がやるべき事が明確になっている。②やるべきことの実現のために経営計画が立てられ、営業、製造、設備投資、採用、社員教育など、一本の筋にそって行なわれている、③やるべきことの実践が現場からボトムアップ形式で推進されている、ということでした。
「独自性」ですが、たとえば外食産業を例にすると、おいしい、安全、安く、早くということを考えることが多いのですが、しかしそれは「当たり前」のことです。そこで、絞って和食を提供するとしても、それほど独自性はありません。さらに、たとえば遠方の希少な食材を集めてきてつくった料理を提供する食堂となれば、かなり独自性があるといえます。これくらい独自性があってこそ、計画を絞ることができると思います。
では、宮川バネ工業ではどうだったかというと、「板バネ」という独自性はありました。しかし、どんな板バネを、どのように作って、誰に売るのかというビジョンはありませんでした。社員には、品質・コスト・納期をよくすることや、整理整頓をするという、どこの製造現場でも言っているようなことしか示していませんでした。
リーダーは、社員にたいして指針を示さないといけません。すなわち、「何のためにこの会社があるのか?」という問いにたいし経営理念を示さないといけませんし、「誰に、何を、どのように売るか?」という問いにたいしては経営戦略を示さないといけません。これらを総じて、経営指針の成文化が必要だと思います。


3.経営戦略を考える
そこで、SWOT分析をしました。強み(S)、弱み(W)、機会(O)、脅威(T)を分析することです。機会としてはいまさら板バネ業界に参入する事業者がいないこと、脅威としてはバネの需要減少と人材不足。強みとしては板バネが得意であること。弱みとしては売上の減少、人材不足とそれによる技術力の低下です。勝てる戦略みえてきませんでした。

会社の未来が社長である私にも見えていない状況でした。社長になってから、7名が会社を辞めました。その当時は、社長1名対社員38名という感覚で、私は会社のためにこんなにやっているのに・・・、とか社員がみんな自分を批判しているように思えていました。
そんな状況で、どこから手をつけるか。人材不足を何とかしたい、社員満足度を高くしたいと考えました。それで、社員との個人面談を始めました。一対一で、一人当たり1時間を目安にとりあえず話を聞く場を設けました。長い人は4時間、恨みつらみを言い続けた人もいました。その他、働きやすさアンケートも実施しました。
それでわかったことは、労働環境がよい、ということです。有給休暇が採りやすく、残業が少ない。ハラスメントをする人も辞めていたので、ハラスメントもない。この強みを活かして、2016年から新卒採用が継続してできるようになりました。

4.製造業界のねじれを発見
「この機械ごと引き取って宮川バネさんで生産してくれないか?」という話が増えてきました。製造業では、大手を中心に、省人化・無人化が進められています。人件費が減れば売り上げは上がります。手間がかかる加工は、外注に出すようになりました。
大手メーカーでは省人化・無人化で人を減らしているのですが、中小企業では面倒な仕事が集まってくるようになっています。ロット数の少ない製品は、人手でやらないと採算が取れません。宮川バネ工業では、無人化・省人化できない仕事がどんどん入っています。
そこで、宮川バネ工業が「やるべきこと」は、社員満足度を高め採用、社員教育、定着率ナンバーワンの中小企業を目指す。それによって、人手不足で他社が手を出せない人手が必要な仕事を獲得することです。


5.まとめ
・人生の目的を自分の意志で決め、他責にしない。=主体性をもつ
・リーダーになったらまず人の話を聞くこと
それから指針を明確に、論理的に示そう
・これからの人口減社会では、人を大切にしない中小企業に生き残る道はない。