滋賀県中小企業家同友会

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第30回経営研究集会 基調講演を開催しました

本会行事

今回、基調講演では、『コロナ禍で更に光を放った経営理念』~社員がゼロから1(イチ)を考え自走する組織が出来るまで!~をテーマに橋本久美子さん(株式会社吉村 代表取締役社長)に報告いただきました。

株式会社吉村は第8回「日本で一番大切にしたい会社」大賞を受賞、また2017年「新・ダイバーシティ経営企業100選」などを受賞されている、年商51.6億円のお茶のパケージ屋さんです。橋本さんは従業員227名(内パート2名)全員の名前を言うことができ、みんなを気にかけられる規模感を大切に経営しておられます。

橋本さんは、二人姉妹の長女で、良い婿養子を迎えるように言われて育ちましたが、大人になるとサッサと嫁いでしまいます。妹が吉村の姓を引継ぎ、妹の夫が会社に入り、次期社長は専務をしていた彼だとみんなが思っていました。ところが、先代の父は2人を呼び「2人で分担してやってくれ」と言われてびっくりしましたが、義弟の同意もあり、橋本さんが代表に就任されました。

株式会社吉村の強みは、販売・企画・パッケージデザインから袋加工まで一貫生産出来ることです。これは全国でも数社しかなく、大きな強みです。またお茶屋さんだけを絞り込んでいることから、全国にお茶屋さんのお客様が8000軒あり、お茶の産地5拠点に営業所があります。そんな強みを生かすことを考え、「茶業界のビジネスパートナー」が経営理念となりました。

しかし、就任当時の社内は“なぜ女性の社長なんだ”という雰囲気で、思いが伝わらなかったり、お客さんにもそのことで良く思われないことが多々あったそうです。落ち込んでいた頃、同友会に入会されます。そこから例会に参加されるようになり、出会った言葉の1つに「長所と短所はコインの裏表」というものがありました。自分の短所を書いて、それをひっくり返して長所にするということを学び、自身がせっかちなことや専業主婦であったことを長所と捉え、どんなことでもプラスに出来るんだと思われたそうです。

その後、エスプリというデジタル印刷機を使ってパッケージを作ることに挑戦。これも同友会で「ゼロからイチ」をつくることが大切な事を学んだからだそうです。なぜならエスプリは世界初号機でマニュアルがありませんでした。マニュアルがない中で泥んこになって頑張ったことが自分たちの強みになるのではないかと思って取り組まれました。

2011年にはデジタル印刷の工場建築のために18億円を投資しましたが、3.11の東日本大震災によって売り上げが止まってしまい、窮地に立たされてしまします。

それが経営理念をつくるきっかけとなり、同友会の経営勉強会の門を叩きました。橋本さんがその勉強会のなかで一番心に残ったのは「サンタクロースの経営理念」です。子どもに、夢やロマン、笑顔を与えるという理念が無かったら、超過酷な深夜労働と労働環境で、誰にもありがとうを言われることなく、こっそり家に入るなんて報われません。

「うちの社員は、茶業界のビジネスパートナーという理念を朝礼時に読んでいたけれど本当にそうだとは思っていなかったんだ」と気づきます。

そこで、経営理念から茶業界という言葉を外し『想いを包み、未来を創造するパートナーをめざします。』とされました。そして経営方針として、1.私たちは、パッケージを通してキラリと光る未来を創ります。(社会性)、2.私たちは、商品の想いが伝わる舞台を造ります。(科学性)、3.私たちは、挑戦して成長し失敗と喜びを分かち合う仕事場を作ります。(人間性)とされました。

橋本さんが経営理念を確立したことで、社内に新しい動きが出てくるようになります。

ある部署のリーダーに指名した女性社員が部署の経営理念をつくりだし、若手社員から新商品のアイデアが出るなど、これまでにない提案をしてくれるようになったのです。

経営理念が共有され始めたことで社員は自分たちで考え、行動していくのです。
他にも経営理念に照らし合わせて色々な取組みをされていますが、共有されてきた価値観に、

1.100点じゃなくゼロからイチ→問題解決能力より課題発見力。

2.解決策で対立しない→ニーズ(なぜそうしたいのか)を掴めば解決策は多様。

3.ルールは変えられる。働き続けてほしい社員のために制度はあとから追いかける。

があります。橋本さんは理念経営のために、これらのことを徹底していると語られました。

現在、コロナ禍が続いています。全員在宅勤務も経験し、「トップダウンですか。」とも言われましたが、命を守る、経済を止めないことを在宅勤務で理念に照らしてどうするか考えようとなり、Zoomでの会社見学会や入社式の「急須の儀式」、ワークショップセミナー。クラウドファンディングの挑戦など、この状況にもかかわらず更に光を放った経営理念で社内が進化を続けている、とご報告いただきました。