滋賀県中小企業家同友会

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湖南支部10月BIG例会を開催しました~良い経営者とは?問われるは…『How to be!』…人として~

湖南支部 例会レポート

湖南支部10月BIG例会を開催しました

と き:2021年10月19日(火)18:30~20:45
ところ:Zoomミーティングルーム
ご講演:谷迫秀行氏 パナソニック松愛会滋賀支部 支部長 元松下幸之助商学院学院長
テーマ:経営者のリーダーシップ 良い経営者とは? 問われるは…『How to be!』…人として
参加者:45名

【ご講演要旨】
本日は、松下幸之助さんがよい経営者の見本だろうということで、松下幸之助さんがどのような考えで経営をされていたのかをお話させていただきます。良い経営者といえるためには最低限必要だろうということにしぼってお話いたします。

同友会では、経営指針を創る会で、高橋さん達から厳しい質問を受けながら、又たくさんの社長さんからご縁をいただきながら、経営理念と行動指針を定めることができました。経営理念と行動指針を会社に残せたのは同友会のおかげだと感謝しております。

 

⑴ 確固たる経営理念

よい経営者に絶対に欠かせないものです。松下幸之助さんは、昭和4年に経営理念を

初めて作りました。「営利と社会正義の調和に念慮し、国家産業の発達を図り、社会生活

の改善と向上を期す」、信条としては「向上発展は各員の和親協力を得るにあらざれば難

し、各員自我を捨て互助の精神を以て一致協力店務に服すること」ということでした。

現在は、綱領は「産業人たる本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り、世界文化の

進展に寄与せんことを期す」としています。

綱領や信条を決める背景ですが、松下幸之助さんは個人経営で商売を始めた当初から、

精神修養に一番いいのは便所掃除だということを決めて、便所掃除は欠かさず毎日、して

おられました。

昭和4年頃は、従業員が400人になっていたころですが、社員の精神修養のためにも

便所掃除を厳しく言い、また自分もやっておられました。それで、松下電器の便所はいつもきれいでした。

しかしある日、トイレがひどく汚れているときがありまして、幹部を呼びつけてしかりつけてやらせようと思いましたが、ふと自分もせにゃいかんとご自身でやりはじめました。ところが、まわりの人はだれも手伝ってくれず、日ごろ言っている思いが伝わっていないことに気づきました。

思いが伝わっていないことを思い悩み、経営理念を文字に表わして言葉で示さないといけないということで、昭和4年に定めたとのことです。何のために働くのか、何のために企業があるのかを共有することが大事だと気づいたわけです。

松下電器の経営理念を私なりに一言で言うと、「社会の貧乏を克服」のために会社を経営する、そして「物心一如の豊かさ」、物だけが豊かになっても貧乏は克服されない、こころが貧乏であればなにもよくならない、ということになろうかとおもいます。

⑵雇い続ける強い責任感

よい経営者は、従業員を雇い続ける強い責任感を持ち続けなければなりません。幸之助さんがご存命の間、松下電器は終戦後に復員したものの仕事がなくて離職した人が出たこと以外は、整理解雇をしたことがありません。

昭和4年、ニューヨークのウォール街で株価が大暴落し、世界恐慌がはじまりました。日本も大不況に陥ったわけですが、その時、松下さんは病気で寝込んでおられました。その当時の番頭さんは後に三洋電機を創業された井植歳男さんでしたが、幸之助さんの寝床に来て、「大将もうあきまへん、半分でも人員をへらさんと会社が持ちません」と相談されました。幸之助さんは「そこまでひどいんか」としばらく考え、「もうすこし考えてみてくれへんか、わしも知恵をしぼるさかいに」と言って一旦二人を帰しました。井植さんは「今さら考えてどないなるちゅうんや」といささか怒り気味で帰ったのですが、やはりどう考えてもいかんので、また相談に来ました。幸之助さんは、二人の必至な訴えを聴いてしばらく黙った後、「わかった、こないにしよう。今日から全員半日出勤にしてくれ。そのかわり、給料は全額はらってくれ、臨時工もふくめ、一人も首を切ったらあかん。店員(今で言う正社員)は、休みを返上して一個でもいいから売りに走ってくれ。それであかんかったら潔くあきらめよう(会社をたたむ覚悟)」と伝えました。

井植さんは、涙ながらに「おおきに」と走って工場へ戻り、幸之助さんの意向を報告しました。そうすると、首切りを覚悟していた従業員たちは「うおー!」と男泣きに泣き、半日出勤で昼から休むかというとそうではなく、工員や臨時工までもが売りに走り、わずか三ヶ月ほどで倉庫は空になりフル稼業になりました。ランプの売り上げが大きく貢献し業績は一気に回復しました。その時、幸之助さんは「どんなに難儀なことがあっても、人さえいてくれたら何とかなる」と心から思われたそうです。

 

⑶人は財産

松下幸之助さんが記者クラブとの懇談会に出られた時、記者から質問を受けました。当時、松下電器は内部留保2兆円、特許料年間500億あり、世界中に最新鋭の工場、そして世界に36万人の従業員がありました。記者は、「もし神様が、その中で一つしかとったらいかん、といわれたら、なにをとりますか」と聞きますと、幸之助さんは、「社員ですな」とすぐさま答えたそうです。会社の貯金も、工場も、特許も、すべて人が生み出したもの、人さえおったらなんとでもなると応えました。それを聞いて、記者は非常に感服したそうです。

「事業は人なり。国づくりは人づくり」といわれます。会社がよくなるも悪くなるも、

どういう人たちが会社をまわしているか、いい国か悪い国かはどういう国民がいるかということで決まります。幸之助さんは、それを承知していましたので、日本ではじめて週休2日制を導入したときも、「一日教養、一日休養」というスローガンを掲げ、「どんな人間でも、2日も休んだらだめになる。一日は人間として自分を磨く日にしなさい」とおっしゃいました。それで、東京と大阪の研修所で「土曜教養講座」を開いて、無料で研修を受けられるようにしたとのことです。

 

⑷断固決する

決めるときは決める。かならず自分の全責任で決めるということをされていました。

しかし決して独断専行の決め方は絶対にされませんでした。たくさんの人に「きみどう思う?」と聞いた上で、物事を判断される方でした。松下には「衆知を集めて全員経営」というスローガンがあります。

やはり、よい経営者の一番の条件というのは、人に対する考え方のしっかりしていること、人間観をしっかりと持った人ということではないかと思います。

 

⑸まとめ

強い使命感をもって、事に当たられることが一番良いのではないかと思います。

使命感とは、自分の命に与えられた役割をしっかりと踏まえて、日々を生きるということ、命を生かす、役割をしっかりと踏まえて経営に挑む、従業員と向き合うことではないかと思います。そして、使命感を、全従業員にわかってもらうためには、誰にも負けない熱意が必要だと思います。熱意のあまり、従業員につらく当たることもあろうかと思いますが、それも熱意のなせる業です。ただ、現代は中途半端なしかり方をするとパワハラといわれますが、厳しく言うときも、愛情さえあれば伝わるのではないかと思います。

 

 

⑹最後に

会社経営をしておりますと、利益が出なくて苦しい思いをすることがあります。特に今はコロナ禍のなかで大変な思いで経営を維持されていると思います。松下電器には利益に関する徹底した考え方がありまして、「松下は世の中のために仕事をしている、世の中の人が困っていることや欲しがっていることにしっかりと応える仕事ができたら、自ずと利益が出てくる、世の中はそういうようになっている。もし利益が出ないということであれば、それは世の中になるやり方ができていないか、なる力がないか、要は世間が相手にしてくれていないということ、世間とずれているんちゃうかという風に考えることや」ということです。そう思ってやれば、世間のせいにしたり景気のせいにすることなく、自らを省みることができ、本質に気づけるという教えでした。利益というものはそういうもんやという考え方が徹底されていました。世の中が必要としていることに真剣に応えていく努力のなかで経営は真っ当に進んでいくるのではないかと信じています。

本当に予期せぬことが起きるもので、コロナ禍という地球規模で対処しなければならない事態が起こり、人類が英知を働かせていく時代が来たと思います。このような時だからこそ、健全な考えと強い思いをもって、お互いに未来を切り開いていければと思います。そういう思いで社長さん方が先頭を切って走れば、「やっぱりうちの会社はええことをしてるんや」と感動・共感して、社員さんも勇気をもって頑張れるのではないかと思います。