滋賀県中小企業家同友会

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湖南支部11月例会を開催いたしました~「SDGsで経営を強くする」

湖南支部 例会レポート

湖南支部11月例会を開催いたしました。

【例会概要】
とき2021年11月16日(火)18:30~20:45
ところZoomミーティングルーム
テーマ「SDGsで経営を強くする~ここから先の持
続可能な経営はSDGsから始まる」
講師笠井智美氏株式会社シオンズ代表取締役
参加者25名

1.SDGsが基づく理念「実現したい世界」とは
SDGsについては「国連で採択された持続可能な開発目標のことで、17の大きな目標と169のターゲットで成り立っています」と説明されることが多いと思います。ただ、この説明だけではSDGsの本来の意義を理解しづらいと思うのです。
SDGsは、2015年に国連の持続可能な開発サミットで採択された成果文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられている目標です。これまで先進国主導で取り組まれてきた発展途上国の平和・開発・人権の課題の流れ(MDGs)と、地球環境と持続可能性の課題という2つの大きな流れを統合し、人類史上初めて、投票ではなく合意をもって採択された、皆で共に取り組む共通の目標です。
「2030アジェンダ」には前文、宣言があり、目標とターゲット、実施手段とグローバルパートナーシップ、フォロアーアップ、レビューという構成でまとめられています。その前文や宣言を知らないまま、目標やター
ゲットだけ切り取られてしまうと、本来の意義が伝わらずに、流行りもののようになってしまって、経営への生かし方が見いだせないと思います。
前文や宣言、これは企業で言うと経営理念のようなものですが、そこにある大きな世界観を要約すると「世代を超えて、すべての人が、自分らしく、よく生きられる世界を目指す」ということであると、『SDGs思
考』の著者・田瀬和夫さんは表現しています。
それは、「格差のない社会・社会的少数者が排除されない社会」であり、「多くの選択肢から人生を選び、自分らしい人生を送れること」であり、「持続可能な消費で地球環境を守り、気候変動に早急に対応し、
今日と将来の世代の両方のニーズを満たす」ことです。
そして、「すべての命が栄え、全ての人々が身体的、精神的、社会的によく生きられる世界」なのです。
そのために、我々は「人間社会・地球環境・繁栄・平和・パートナーシップ」という5つのことに向き合う決意をもって、17の目標項目を設定し、みんなで取り組むのだと、謳っているのです。
SDGs17の項目には、予測される未来とこれから創り出す未来が書かれています。今後世の中がこの方向に動いていくということです。経営環境の変化の方向性が記された「未来の地図」を手にした私たち
は、これを経営に活かさない手はありません。
ただ、短い言葉で表された17のカラフルなアイコンに自社の強みを紐づけても、そこから経営にどう生か
したらいいのかわからないという話をよく聞きます。アイコンは、あくまでもキャッチコピーのようなものです。
たとえば目標12のアイコンは「つくる責任つかう責任」と書かれていますが、これは目標12の「持続可能な消費と生産のパターン(形態)を確保する」という文章を端的に表したものなのです。
本来の目標の文言や、そこに連なるターゲットまでしっかり見て頂くと、自社の事業と結びつけやすくなります。

2.なぜ、中小企業がSDGsに取り組むのか
SDGsへの取り組みは、個人レベルならばゴミの分別やエコ商品を選んで購入するなど、暮らしを通じた様々な関わり方があります。公共では行政やNPOやNGOなどの活動もあります。私たちは経営者ですので、ビジネスを通じてSDGsを実現していきます。そこでは、経済価値と社会価値との両立が大事になります。これまでは、経済価値のところに焦点が当たっていて、社会価値については、本業とは別の社会貢献のように捉えられていました。
しかしこれからは社会価値で貢献しながら、事業として成り立たせていくことが経営の持続可能性となる時代です。それを踏まえ、中小企業がSDGsに取り組む必要性を3点に絞ってお伝えします。

①SDGsは世界の変化を先取りしてイノベーションと新市場の源となる。

これまでは、企業の方が製品やサービスを提示していく「プロダクト・アウト」や、お客様のニーズに対して製品やサービスを提供する「マーケット・イン」で市場が創られてきました。これからは、社会課題を起点と
して新しいビジネスチャンスを見出す「アウトサイド・イン」で、顧客創造に挑戦していく時代になりました。
そのためには、社会課題を敏感にとらえ、今までの延長線上ではない考え方が必要です。これまでは結び付いていなかった要素を新しく結合させてみることも、イノベーションのきっかけになるでしょう。
また、中小企業がSDGsに取り組むことで、生活者・消費者でもある中小企業で働く従業員の方々の意識も変わり、様々な方向から社会課題の解決が進んでいくはずです。

②顧客や社会がSDGsにあった、製品やサービスを求めている
これからの社会では、材料の調達、製造工程、提供プロセスすべてにおいて、企業に対応する責任があるとされます。サプライチェーン全体での取り組みとして、消費から廃棄にいたる過程まで、自社だけでなく関連業者や取引先も、SDGsに沿った活動をしているかを透明化するよう求められます。対応できない中小企業は、サプライチェーンから外されるという可能性もあるのです。逆にちゃんとやっているところであれば、新たにサプライチェーンに入ってくれとお願いされることもあるかもしれません。
このように、環境やワークライフバランス、人権への配慮、個人情報の管理など企業統治に関わることなども含め、サプライチェーン全体で持続可能な経営に取り組んでいくことが求められているのです。

③次代の担い手となる人材が持続可能な組織運営に大きな関心を持っている
若い世代の方たちは、幼いころからSDGsについて教育を受け、環境や世の中の動きに関心をもち、様々な活動にも参加しています。そして、世の中に自分がどのように貢献できるのか、仕事を通して自己実現したいと考えている人たちもいます。それらの若者たちには、会社の理念やビジョン、方針など、会社が大事にしている考え方を示していかないと就職先に選んでもらえません。
また、終身雇用されることを始めから考えていないとか、フリーランスや起業する人、副業や複業をして社会貢献をしていこうという方もおられます。中小企業は次の世代の人に選んでもらえなければ、組織の新陳代謝がうまくいかず、新しい考え方が入ってこなくて、会社のパフォーマンスが落ちていくでしょう。当然社内技術の承継もうまくいきません。つまり、中小企業が志を実現するための仲間が集められずに、自社の強みも強化できなくなって、経営の持続可能性に影響が出てくるかもしれないのです。
事業にはライフサイクルがあり、世の中が変化に対応した事業構造を創り出さないと稼ぐ力が弱っていきます。また、働き甲斐のある企業づくり、個々人が自分の力を発揮しながら自分らしく仕事ができる風土をつくっていかないと、新しい人も入ってこないし、人材が定着しなくなります。つまり稼ぐ力が弱くなるのです。
そして稼ぐ力が弱くなると財務内容が悪くりますよね。しかしSDGsを経営に取り込んで、環境・人権・ガバナンスに対応していけば、このような負の連鎖を断ち切り、新しい事業を開拓していく攻めの部分と、経営の基盤となる守りの部分を固めて、会社を強くしていくことができます。

3.SDGを経営に取り込むために
経営指針書の構成をお伝えします。まず経営理念があって、その実現の課程としての10年ビジョンがあり、その次に長期と中期の経営方針があります。これは事業の方針ではなく、経営全般の方針であることが重要です。事業に加え、それ以外の3つの要素、企業統治の基盤、人・組織・風土、財務、それぞれに方針を立て、経営方針をつくっていきます。当面の事業だけをみていると視野が狭くなってしまいます。長期的な視野も持ちながら、自社が今後、生き残っていくための「守り」や「未来への種まき」を盤石にしましょう。

さて、図で示したように、経営指針とマネジメントサイクルの構成は、よく見ると、先ほど説明しました「2030アジェンダ」の構成とほぼ一緒ですよね。前文や宣言の部分が経営理念や10年ビジョンにあたり、そ
れらに基づいて目標を立て、PDCAを回す流れです。「2030アジェンダ」はまさに、地球の経営指針書みたいなものです。
SDGsに取り組むうえで大切な思考法は、まず先に「こういう未来を達成するんだ」ということを掲げ、そこを起点に今すべきことをやっていくというもので、「バックキャスト思考」といいます。未来を創るために
は抽象度が高く、目指すものとして意味付けした方針をしっかり持つことが大切です。自ら意味づけた目指す未来があるからこそ、それを軸にして手前の計画を修正していくことができます。軸となる経営理念とビジョンをしっかり持ち、そこにSDGsを統合していってください。
経営理念の体系は、目的理念、行動理念、理念を追求した先の実現したいビジョンからなります。SDGsの取り組みにおいては、目的理念で、「これからの社会で、わが社はなぜ存在すべきなのか」を再定義
することが肝となります。そうすれば、17の目標や169のターゲットとの関係性が見えてきます。世の中が大きく変わろうとしている今こそ、抽象と具体を行ったり来たりしながら、自社の存在意義を問いなおしてい
ただければと思います。

4.グループワーク
グループに分かれ、メンバーそれぞれのリソースを出し合って、社会課題解決の事業考えてもらいました。全体発表を通して、SDGsを進めていくには、長期的な視点とパートナーシップが鍵となることを学びました。

5.まとめ
同友会理念は、2030アジェンダの地域版と言っても過言ではありません。同友会理念では「よい会社をめざす・よい経営者になる・よい経営環境をめざす」という3つの目的に、人への向き合い方や心の能力でもある「自主・民主・連帯の精神」で取り組み、「地域とともに歩む中小企業」を目指していけば、きっと「誰もが持っている、人間のすばらしさを発揮できる社会が実現できる」と、地域の未来を掲げています。
まさに、冒頭でお伝えした2030アジェンダの前文や宣言にこめられた大きな世界観と同義ではないでしょうか。まさに私たちが学んできた「人を生かす経営」そのものが、SDGsの実践であると確信できます。どうかSDGsを経営に取り込んで、攻めと守りに活かし、持続可能な経営を進めていっていただければと思います。