滋賀県中小企業家同友会と立命館大学経済学部との協力協定に基づいてスタートした同学部2回生対象の「キャリアデザイン講義」(担当:共育・求人委員会)第13講が12月19日(木)16:20~17:50まで立命館大学びわこ・くさつキャンパスで開催され、水茎焼陶芸の里(㈲楽市楽座) 代表取締役社長 いまい ひさのりさん(滋賀県中小企業家同友会 東近江支部所属)より「勇気と創造 真のクリエイティブとは~幸せな人生を送るために~」をテーマに概要以下の通り講義をしていただきました。
私が最初に一生懸命頑張ったことは中学の時から始めた水泳です。最初から強かったわけではありません。中学2年生の時、滋賀県の大会で4番以内に入れず近畿大会出場を逃しました。その後、先生に呼ばれ「近畿大会に行けなかったから小学生と練習してこい」と言われ、小学生と一緒に練習をするという非常に悔しい思いを経験しました。悔しさをバネに一生懸命練習し、その翌年に滋賀県の1番になりました。挫折から努力を学んだ経験でした。
そして、もう一つ学んだことは、1番以外覚えて貰えないということです。
日本電産・永守社長が「1番以外は皆ビリ」と言っています。どんな小さなフィールドでも良いから1番になるということはそれだけ価値のあることです。さらに、1番になると見える景色があります。1番にしか見えない景色です。例えば、社長と副社長とでは見える景色が違い、役割も違います。社長の立場になるということは、考えるべきことの幅の広さ、深さ、質の濃度が、副社長とはまったく異なるのです。頭の中で考えていただけでは分からない大切なものを得ることでもあるのです。
中小企業は大企業に比べて社長のポジションに近いので1番になりやすいです。中小企業に就職するメリットの一つです。
また、私は古典の授業を担当しておられた予備校の先生との出会いから予備校講師(英語)をしていました。
18歳の時、通っていたゼミの時間が空いたので予備校の古典の授業を受けました。その授業は本来くる先生が病気で欠席になり、東京から違う先生がきていました。「授業が楽しい、解りやすい」と驚き予備校が好きになり講師になりました。その先生が教えてくれた座右の銘は「さるべきにやあらむ(仏教用語)」でした。そうなるはずだった、全ての物事はなるべきにしてなったという意味です。私が予備校講師になったのも、ここで今皆さんの前で話をしているのも「さるべきにやあらむ」です。
予備校講師時代の先輩先生から聞いた話が今でも心に残っています。それは、その先生は大手電気会社の研究員として就職し、毎日定時で帰り、毎日勉強していたそうです。1~3年で同期はどんどん出世していくのに、その先生は勉強ばかりしているので、なかなか出世しなかったそうです。しかし10年後、同期を全部抜きました。どういうことかというと社会人になったら勉強しないといけないという事です。社会人こそ勉強が大切ということを先輩先生から教えて貰いました。
大学生の皆さんは今も勉強されていますが、実は社会人になったら更に勉強していかなければならないということです。
就業時間中に勉強の時間がある会社は良い会社が多いです。
平成10年2月に創業者先代社長(亡父)の末期癌が判明し、予備校の先生を辞め急遽事業承継することになりました。平成11年1月1日正月に先代が亡くなり代表に就任し、陶芸教室の先生をしています。
責任者のポジションに就くということは大変な覚悟が必要です。それは、責任者は何かあったときに責任を取らなければならないからです。「責任を取る」とは「出た不本意な結果に対して金銭面からこれを償う事」です。その覚悟がなければ責任者になってはいけないと思っています。
水茎焼陶芸の里は1989年に先代が創業しました。滋賀県で1番の観光地「近江八幡」と2番の観光地「長浜の黒壁」で、陶芸体験教室の運営と焼き物販売とレストラン(近江八幡のみ)の運営をしています。
水茎焼とは「びわ湖をイメージした水色と、滋賀県の鳥カイツブリがデザインされている琵琶湖の焼き物」で、高級な焼き物では無く、普段使いの日常食器です。
陶芸体験教室は、最大収容本店400名(過去実績360名、出張教室480名)、長浜店140名を誇る業界最大手クラスの大型体験施設です。本店陶芸参加人数延べ100万人、長浜店40万人とたくさんの方に陶芸体験をしてもらいました。
水茎焼の基本コンセプトは「郷土・自然・文化」理念は【全従業員の物心両面の幸福を追求する】です。良い企業の特徴は基本コンセプト(経営理念)にブレが無いということ。一方で手法はコロコロ変えます。手法は無限にあるので、見つけて考えて実行していくということが大切です。
就職活動をするときに大切にしてほしいのは、大企業・中小企業関係なく“経営理念”と自分の考えが合っているかどうかです。いくら良い企業でも合っていないところに就職しても幸せにはなれないと思います。
観光業の繁忙期(10月~11月)入口の2017年10月20日に大型台風により起こされた竜巻で店舗の屋根が飛びました。見たときは、どうしたら良いのか分からず「会社、倒産か?」と逃げ出したくなりました。しかし、そこで3人の師の顔が浮かんできました。
一人目は「故 岩原 侑師 元㈱近江兄弟社 代表取締役社長」
「メンソレータム」で隆盛を誇った同社の業績が悪化。会社整理の申し立てを行い、再建を模索している最中、米国メンソレータム社から契約解除の通告が来、交渉のために渡米中、妻が死去します。会社は潰れ、最愛の妻を亡くし、再建の道は閉ざされトリプルパンチを受けたどん底状態の中でも諦めず、メンソレータム社に、似たような商材を売ることを認めてもらい「メンターム」を作り、他にも数々の再建策を実行し、倒産時の負債37億を、1990年に完全返済。自己資本比率72%の優良会社に変身させた人物です。
二人目は「故 岡村 潤應猊下 観音正寺住職」
平成5年の失火により国の重要文化財であった御本尊の千手観音立像もろとも焼失、平成16年に本堂が再建され、輸出禁止の白檀を、インド政府と交渉し23tもの輸入に成功した人物です。
三人目は「小川 与志和兄 ㈱和た与 7代目当主」
夜中に火災が起き、奥さんとお子さん3人が亡くなるという辛い経験をされましたが、歴史あるお店をしっかり再建された人物です。小川さんは「周りの人からの励ましと応援があり、代々受け継いできた商売の歴史と看板があったからこそ乗り越えられた」と仰っていたそうです。
この尊敬する3人から後ろ指指される生き方はしたくない!と立ちすくむ自分に一歩踏み出す勇気を与えてくれました。考えるのは後、まずは行動しなければと、中に入って現状確認をしました。商品を置いてある場所は壊滅状態で多くの商品が割れ、食事スペースからは空が見える状態でした。ただ、体験スペースとメインダイニング・厨房は奇跡的に無傷でした。外観はかなり派手に傷んでいましたが何とかなるというのが分かりました。その後、私が取った行動はルーティン業務です。悲惨な状態でしたが日常業務に戻ると落ち着きました。そして地元工務店に連絡し復興が始まりました。
本件を通して学んだ事は「絶望的な状況であればあるほど、それを直視しなければならない。逃げてはいけない。」「まずは落ち着いて見る事。解決の手法は無限にある。」「大変な時ほどいつもと同じ事をすると落ち着く。」「打つ手が決まれば即行動。早期行動が即解決に繋がる。」「最後、助けてくれるのは“人”」ということです。
私が今お話したことは、私の師匠、先生、恩師から教えていただいたことを自分なりに咀嚼してお伝えをしました。これを「バトン」といいます。リレーのバトンと違い、人生のバトンは何本もあります。バトンが多ければ多いほど人生は豊かになります。今日の話しの中で色んな話しをさせていただき皆さんにバトンをお渡しいたしました。
いまいさんの想いのこもった心に響く講義でした。これから社会に出る学生にとって大切な「人生のバトン」をたくさん受け取ることができたのではないでしょうか。いまいさん、ありがとうございました。