滋賀県中小企業家同友会

委員会活動について-政策委員会-

松山市・東温市「中小企業振興基本条例」制定と推進に学ぶ視察研修会②

政策委員会 その他活動

○会員企業訪問②

と き:2016年2月10日(水)09:00~11:00
ところ:義農味噌株式会社
司 会:大北雅浩氏 愛媛県中小企業家同友会 事務局員
報告者:田中正志氏 愛媛同友会代表理事 義農味噌株式会社 代表取締役

田中氏は愛媛同友会の経営指針成文化セミナーへ参加され、「何のために経営をするのか」を考え続け、その先にある「私は何のために生きているのか」「使命は何か」と深堀をし、引け目を感じていた麦味噌に対する思いが180度転換。麦味噌文化を伝承発展させる理念を成文化し経営の軸を定め、商品開発と外部発信に取り組まれます。
しかし、その後も他社の物まねや田中氏の思いつきで商品づくりを繰り返します。結果として、社員はまったく本気にならず、販売も進まずもがき続けます。同友会の鎌田専務から「社員の声を聴いて開発しては」とアドバイスを受け、平成14年から開発会議を夜に手弁当で10人ほど集まりスタートしますが、当然アイディアがでません。

とりあえず物まねからやろうと「伊予さつま汁」を6ヶ月かけて開発するも、売れません。「皆でつくった商品、売れないでどうする」と言うことになり、お客さんに知ってもらうために、店頭販売を二人1ペアで行いました。すると「これはお婆ちゃんの味や」「ありがとう」とお客さんからお褒めの言葉をいただき、社員も自信を持つように。この店頭販売がもとで、売れ始めるようになったそうです。ちょうど地産地消の風も吹き、今ではブランド力のある相手先の素材を使った商品もつくっています。

実は、日本の半分の人は味噌を食べていないとか。であれば、義農味噌で残り半分の人に対して麦味噌を食べてもらえる条件をつくれば、麦味噌文化が日本中に広まるという考えで、味噌造りと発信に取り組んでおられます。

愛媛の食文化を日本に発信・展開するようなステキな企業づくりを実践し、同友会では共同求人活動にも取り組んで、地域に若者を残すために良い企業づくりを推進される田中氏。この様な方がリーダーだからこそ、条例運動も前進するのだと思いました。

○愛媛大学訪問

と き:2016年2月10日(水)14:00~16:00
ところ:愛媛大学 愛媛大学ミュージアム
司 会:大北雅浩氏 愛媛県中小企業家同友会 事務局員
案内・報告者:和田寿博氏 愛媛大学法文学部教授

和田教授より愛媛大学の学術研究成果を地域に公開・発信する場としてつくられた愛媛大学ミュージアムを見学したあと、以下の通り概要ご報告を頂きました。

大学の教員は①「教育」②「研究」③「社会貢献」④「管理運営」の機能を果たしています。和田教授は「同友会と理念が一致する」ので、そのすべての点で同友会とお付き合いをされています。そして、この付き合いの上に、人間関係で結ばれていると言われます。条例では、行政職員も一生懸命になっていますが、同友会の人が行政職員を育てているとも言われます。その力は「科学と情熱と“なんとかなせなあかん”と言う思い」だそうです。

つまり、「機能」と「理念」と「人間関係」で同友会運動と結びついていると言うことでした。

条例は東温市で3年目、松山では2年目の取り組みで、和田教授はその二つの円卓会議に関わっておられます。変わったところは「中小企業は真ん中の存在や」と言うことで、中小企業に自信がついてきたこと。同友会始め全国から市へ視察に来られることで、市の職員さんも自信を高めているそうです。東温市と松山市で取り組んだ逆商談会など、行政の枠を超えた連携は特筆した取り組みだと強調されました。

条例は法であり、そこに財務の位置づけをすることが重要。中小企業振興は新しい独自の課題であり、中小企業家、議員、行政も一体となって勉強して取り組まないと進まないとも。

最後に、円卓会議の座長として一番気を配っていることは、構成する委員相互のコミュニケーション。「忘年会などの飲みニケーションの調整も重要」だと纏められました。

◯寄稿
中小企業、行政、大学が連携した地域づくり
―2016年2月、松山市・東温市への訪問を通じてー

立命館大学経済学部教授 松野周治

2016年2月8日(月)~10日(水)、松山市および東温市を訪れ、中小企業、行政、大学が連携した地域づくりの先進的取り組みを学んだ。8日は、鈴木茂・松山大学教授の研究室を訪問、同教授及び小淵港・愛媛大学名誉教授から、愛媛の地域経済、並びに、松山大学と内子町の連携講座(鈴木教授担当)、愛媛大学の新学部など、教育研究を通じた地域連携について話を伺った。9日および10日は、奈良県中小企業家同友会が企画した「松山市・東温市『中小企業振興基本条例』制定と推進に学ぶ視察研修会」に参加した。
立命館経済学部は昨年、滋賀県中小企業家同友会と教育、研究分野における協力協定を締結した。協力の具体化の一つとして、2016年度より「キャリアデザイン」(1回生受講、2単位)および「地域調査実習」(2回生以上受講、同)は、同協定を基礎に開講される。新担当者として両科目を準備する中で、滋賀県中小企業家同友会廣瀬専務理事から「松山・東温視察研修会」の案内を受け、同理事とともに、参加することとなった。

8日、本隊より一日早く出発し、新幹線と特急を乗り継いで松山へ入った。岡山から瀬戸大橋を渡り、丸亀、観音寺、新居浜、西条、今治と「しおかぜ」7号は進んだが、車窓を流れる街並からは、地域経済と社会基盤構築の歴史が感じられた。穏やかで島が多い瀬戸内海は、中国と四国、九州と近畿、中国と朝鮮の物産と情報が行き交うことを可能にし、「両岸」地域を発展させてきたことに思い至ったが、鈴木、小淵両教授から愛媛県各地域の歴史と現状を聞くなかで、その考えはより強固なものとなった。
9日と10日は、そうした基盤の上で東温市および松山市において展開されている、中小企業振興を通じた、より高いレベルの地域づくりについて、企業家、行政担当者、大学教員からお話を聞き、見学させていただいた。
昨年来の滋賀県同友会との協議の中で、中小企業憲章(2010年6月閣議)を知り、「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主役である」という憲章冒頭を踏まえて講義概要を執筆したものの、振興条例とその制定過程については、今回の視察研修に参加して初めて学んだ。東温市中小零細企業振興基本条例(2013年3月)および松山市中小企業振興条例(2014年3月)の特徴は、制定にあたって中小企業家同友会が大きな役割を果たしていること、調査・条例・円卓会議という「3つの定石」(植田浩史・慶應大学教授)を踏まえていることである。
東温市(人口3.4万)の条例は、地域の将来に対する漠然とした不安を持っていた同友会支部役員(正副支部長と幹事長)、同友会事務局長、市役所課長補佐の5人によって始まり、1年間にわたる徹底した学習の後、実態調査、条文精査を経て制定された。調査結果に基づき、条例のタイトルに「零細」が加わったこと、愛媛大学との連携(条例検討委員会委員長や円卓会議議長への教員就任、市に立地する医学部および附属病院と協力したヘルスケア産業やものづくり産業の創生、など)が印象に残った。松山市(人口51.7万)でも企業実態調査から始まり、条例が制定されている。その特徴は、「経営に意欲のある」企業を支援すること、振興に向けた中小企業、中小企業関係団体、金融機関、学校、市民、行政、それぞれの役割、支援に必要な財政上の措置を規定したことなどである。
両条例ともに、制定と実施に対して、井藤正信教授、和田寿博教授をはじめとする愛媛大学の教員が大きく関わっている。その背景には、2007年度から続く愛媛大学法文学部「愛媛県中小企業家同友会提供講座・現代中小企業論」の開講(第9期・2015年度のサブタイトルは「私の人生(キャリア)設計、その意味と価値~なぜこの道を選んだのか~」)や学生のインターンシップなど、長期にわたる同友会と愛媛大学との連携がある。本年4月、愛媛大学は「社会共創学部」を開設するが、地域社会との連携を通じて地域づくりを担う人材を育成する同学部に対して鎌田哲雄専務理事をはじめとする同友会は大きく関わっている。
中小企業家同友会は会員企業の「経営理念」とそれに基づく「経営指針」づくりを重視している。田中正志代表理事が代表取締役を務める「義農味噌(株)」は、愛媛の麦みそ文化の伝承・発展を経営理念の第一にあげていた。米田順哉副専務理事が理事長を務める「NPO法人家族支援フォーラム」は障がい者のライフサイクル支援を理念に、障がい者を子どもや兄弟姉妹に持つ家族が立ち上げた法人であった。地域のいわば「経営理念」である中小企業振興条例づくりに同友会が大きな役割を果たすことができる理由である(東温市研修会における藤岡貞雄支部長の発言)。
ただし、条例の制定、並びに、それ以上に重要な理念の具体化、すなわち、中小企業振興を通じた新たな水準の地域づくりを実現するためには、関わる人間の情熱、および戦略に基づいた行動が必要である(鎌田哲雄専務理事)。中小企業家、行政の担当者、大学教員一人一人の強い意志と優れた実践が求められている。
今回の視察研修団には、奈良県広陵町の同友会メンバーと商工会会長が町役場の担当者とともに参加しており、県下の市町村で最初の振興基本条例の制定に向けた活動が始まる。他方、滋賀では、県で中小企業活性化推進条例、栗東市で中小企業振興基本条例がいずれも2012年に制定され、県には「活性化推進審議会」が設置されている(年3回開催)。ただ、関係者の連携による中小企業振興、それを通じた地域づくりに向けてなすべきことはまだまだ多くあるように思われる。県同友会を軸に、草津市、大津市の協力をえて立命館大学で開講する連携講座(15回中11回で中小企業代表者が講義)を、愛媛大学の経験に学びながら充実したものにすること、それが、今回の視察研修参加した自分自身にとって、当面の課題である。
最後に、視察研修を企画した平山雅英代表理事、伊藤事務局長をはじめとする奈良県同友会の皆さん、参加のきっかけを作っていただいた滋賀県同友会廣瀬専務理事、そして何よりも現地で受け入れ、充実した研修プログラムを手配いただいた田中代表理事、鎌田専務理事、米田副専務理事、大北事務局員をはじめとする愛媛同友会の皆さんに心から感謝する。なお、経済学部からの小生の派遣については、松本朗学部長にお世話になった。(3月20日脱稿)

○最後に

奈良同友会の企画に便乗する形で、現地でしっかりと勉強したいと思っていた東温市と松山市の視察に参加することが出来ました。
まずは、押しかけ参加を快く受け入れてくださった奈良同友会の平山代表理事さんをはじめとした役員の皆さん、二日間とてつもなくハードなスケジュールの研修を企画した伊藤事務局長さんにお礼申し上げます。また、その様なハードスケジュールに、朝から夜までご対応をして下さった愛媛同友会事務局員の大北さん、病気療養中にもかかわらず、報告や案内にお付き合いを頂いた鎌田専務理事さん、何から何まで、有り難うございました。

視察の先々にてご報告を頂きました皆様にも、この場をおかりして心からお礼を申し上げます。

愛媛同友会が植田浩史慶應義塾大学経済学部教授の提唱する定石(調査・条例・円卓会議)をもとにした条例の制定と推進運動に取り組んでいることは、全国的にも注目され周知のことだと思います。今回の視察を終えて、おそらく西日本で同友会が関わった条例制定の取り組みでは、今日的には最も典型的なものだと、再確認することが出来ました。その中心を担っているのが、プロデュース機能を全権委任で果たしている事務局と担当役員さんであると言うことも、おそらく先進的だと思います。

東温市でも松山市でも感じたことは、行政職員の方の思いが強いと言うことです。では初めからその様に思いが強かったのか?という問いが生まれますが、お話しにあったように、同友会の中心メンバーの情熱としっかりとした学習に支えられた確信が、その思いを担保しているのだと理解しました。

実践を伴わない上辺の言葉は人の心を揺さぶらないと思います。同友会運動で「良い会社・良い経営得社・良い経営環境」を「自主・民主・連帯の精神」で推進し「国民や地域と共に歩む中小企業づくり」という同友会理念をぶれないで実践していること。その「現物」としての地域になくてはならない企業づくりが「見える化」されていること。自社の理念の実現が地域づくりであり条例運動の推進であると確信を持って言い切られる役員さんがちゃんといらっしゃるなど、現場に行かなければ
感じることが出来ない貴重な勉強をさせていただきました。

私たちに求められていることは、この地域の「生きる・暮らしを守る・人間らしく生きる」を担う確かな未来を創り上げること。それを中小企業の発展を通じて実現していくことです。そのために、どのようなフレームワークで同友会運動を推進していくのか、戦略と戦術が求められています。愛媛では、そこに加えて豊で確かな人間関係の構築が必要であることを知りました。

人とひととの豊かな人間関係。多様で魅力ある人々が繋がり、この地域を元気にするために気張らず・急かず・あきらめないで自分の持つ力を発揮する人々の関係づくりが必要だと。その中心的な担い手は、同友会に結集し、研さんする私たち中小企業家であり、事務局集団であると。このレポートが、そういう繋がりを構築していくために、ちょっとしたきっかけづくりに役立つこと、参加したメンバーが地域に帰って具体的に足を踏み出す(まず方針を持つ)ことにつながることを願います。文章の責任はすべて私にあります。密度の濃い研修を充分に伝え切れず、表現も不充分であることをお許し下さい。

2016年 2月29日
滋賀県中小企業家同友会
専務理事 廣瀬元行

※中小企業の活力を引き出す条件と環境を整備し、滋賀県経済の自主的・平和的な発展をめざして、中小企業振興に取り組んでいこうとしています。
その主人公は、中小企業経営者です。
同友会の3つの目的「良い会社・良い経営者・良い経営環境を目指す」ことにご賛同いただける中小企業経営者を募集しています。
滋賀県中小企業家同友会で、企業づくりと地域づくりを共に進めませんか?
ご入会のお問い合わせは滋賀県中小企業家同友会事務局までご一報ください。

TEL 077(561)5333
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